第9章 再会
‐木葉side‐
今日は、深夜勤務の予定だった。
それが、昼間に掛かってきた電話で変更になったんだ。
急に入った予約の客が、俺の知り合いだって聞いたからって、店長の機転だった。
店に出勤してから、予約の名前を確認したら木兎で。
珍しい名字だし、まぁアイツだってすぐに分かったワケよ。
本当は、来た時に調理場から少し顔出して挨拶する程度で済まそうと思ってた。
五月蝿いから仕事の邪魔されても困るし。
それが、出来なくなったのは熊野がいたから。
来店した木兎達の中に、忘れたくても忘れられなかった女。
調理場の出入口から覗いた時、チラりと見えただけなのに熊野だって分かった。
思い出したのは、最後に聞いた熊野の声。
必要ない、って言葉。
熊野は、口が不器用で、伝える事が苦手なネクラ。
表に出てきた言葉だけで、判断しちゃならなかった。
それを分かっている今なら、聞けると思った。
俺の知り合いって予約の時に言うくらいだ。
どうせ、挨拶に呼ばれるのは分かってて。
熊野と話す機会があるなら、それに乗りたかった。
多分熊野側からの情報だろうが、俺達の関係を知ってるアイツ等が気をきかせて2人きりにしてくれたから。
聞きたかった事も聞けたし、まだ俺にもチャンスがあるんだって分かった。
気付いてないフリして個室に入った時に顔を隠すわ、赤葦の腕ん中に収まってるわ、で腹が立って。
腹が立つって事は未練があるワケで、そのチャンスを逃すなんて出来ねぇよ。
少し、強引にやっちまったけど受け取ってくれた名刺。
それを大切そうに見つめているのは、期待しても良いって事か?
「はーい!ツーショットタイム終ー了ー!」
俺を意識させる為に声に出そうとした言葉は、タイミング悪く戻ってきやがった黒尾の声で飲み込む事になった。