第9章 再会
木葉さんは驚いたのか一瞬止まって、それから私の指を包むように握る。
振り払おうと思えば出来るくらいの力だけど、それはしなかった。
「…俺ね、こういう世界に興味なかったんだよ。今はそりゃー好きでやってっけど、さ。」
知ってる。
木葉さんも進学組だった事くらい分かっている。
でも、進学より就職を選んだ。
何故、なんて問わなくても話を続けるだろうから黙っていた。
「熊野と進路の話、した事あったろ?お前、料理が好きだからそっち方面いきたいって言ったじゃん。
俺も同じ道にいけば、たった2年でも早い分、それなりのコネでも作っておけるかなー、なんて。熊野に頼って欲しかったからこの道を選んだ。…ま、一言で片付けられたけどな。」
ゆっくりと手が離される。
温もりを知ってしまうと、惜しくなってしまうもので、自分から手を掴み直した。
多分わざと、今の言い回しをした。
必要ない、の一言。
その意味を、私の口から言わせる為に。
「傷付けて…ごめんなさい。でも、必要ないってそういう意味じゃなかったんです。」
今、言わなければ一生誤解も解けない気がする。
「…私の為に無理とかして欲しくなくて、わざわざ時間作ってくれる必要はないって言いたかったんです。
たまに、本当に時間が空いた時に会ってくれたら嬉しいくらいの意味で…。」
「…なァ、両想いだったの?俺等。」
私の言葉を遮って言う木葉さんの手は震えるくらい強く握り返してきて、少し痛かった。
「木葉さんも、そう思って頂けたのなら、両想い‘でした’。」
真剣な顔を見つめ返して、自分の口から出たのは過去形で。
本当に終わったものだったのだと、確信した。
「またフラれたー。」
ふざけたような笑顔で、おどけた口調で言いながらまた手を離される。
今度は握り直してはいけないと分かっていたからしなかった。