第9章 再会
グラスの中の氷が溶けて立てる音が聞こえるくらいの静けさ。
皆はきっと、気を使って席を外したんだろうからまだ帰ってこないのは分かっている。
「…あの、木葉さん。今は職人さんなんですか?和食の、板前さん。」
皆が戻るのを待って、自分では分からない安心した顔を木葉さんにまた見せて、悲しい顔をさせたくなかった。
だからって、木葉さんが気になっているだろう‘あの言葉’の意味を伝える勇気はまだなくて。
話を変えるように気になっていた事を聞く。
さっき、仕事中にここへ来た時は白衣を着ていた。
答えは分かっていたけど、他に話題が思い付かなかった。
「…ん。分かる?」
「手を見てれば。」
右手の指には職人特有の包丁を握るタコがあって、包丁の背を支える人差し指が若干太くなっている。
その手を指差して示すと目の前に差し出された。
大きな手の平に長い指、水を扱うから荒れていてお世辞にも綺麗とはいえない。
でもそれは、仕事を全うしている証で、引き寄せられるように指先で触れた。