第9章 再会
その人、木葉さんとは今の私ではまだ、顔を見て喋るなんて出来ない。
気付いて欲しくない。
「初対面じゃねぇし、赤葦の彼女でもねぇだろー。りらちゃん、皆のも…ん!」
「木兎!」
私の願いは届かず、名前を呼ばれてしまった。
黒尾さんが慌てて木兎さんを押さえたようだけど、時すでに遅しだ。
「…りら?熊野りら?」
昔は名字で呼ばれていたから下の名前じゃ分からないかも、なんて淡い期待はすぐに消えた。
「…顔、見ーせーて。カワイコちゃん。」
感じる振動と、近い場所から聞こえる声。
多分、私の傍にしゃがむかなんかしている。
「木葉さん、仕事中でしょ?戻らなくていいんですか?…あぁ、サボりですか?トモダチ来てるって言い訳でサボれるなんてイイ職場ですね。」
月島さんの嫌味にしか感じない喋り方も嬉しく感じてしまう。
「このコの顔、見たら戻るよ。…なぁ、熊野?」
ここまで守ってくれたけど、もう無駄だと悟った。
昔の呼び方で私を呼ぶ声は、完全に確信している。
「…赤葦さん、もう良いです。有難うございました。…お久し振りです、木葉さん。」
腕を緩めて貰えるように声を掛けて抜け出し、顔を向けた。