第8章 いってらっしゃい
そんなやり取りでは、すぐに続かなくなってしまう訳で、私が弾いたボールが道の方へ出てしまった。
慌てて拾いに行こうとすると、転がるボールを拾う人。
「…月島さん。」
「君、こんな所で何やってるの?」
上に持っていかれたボールを追って視線を上げると知り合いの顔。
「きとりちゃんに付き合わされまして。」
答えながらボールを受け取ろうと手を出したけど、返しては貰えなかった。
「…君がご飯作らないと木兎さんが五月蝿くて困るんだよね。どうせ、ヘタクソで相手になってなかったんだから、早く帰ってやる事やったら?」
確かにご飯は食費を貰っている限り私の仕事だけど、今日は少しだけ特別なんだ。
多分、寂しくてじっとしてられないきとりちゃんを一人にしておきたくない。
もう少しだけ付き合いたい、と言おうとする前に月島さんは公園に入ってきとりちゃんの方に向かっている。
「…こっちは僕が相手しておいてあげるからさ。彼女の我儘も今日までだし。」
声は仕方ないと言った感じだったけど、チラりと見えた顔は僅かに笑っていた。
私がまだ付き合いたいと思う意図を理解して、代わりを申し出てくれたんだ。
「有難うございます。」
頭を下げてから自分だけ家へと戻っていった。