第8章 いってらっしゃい
時間が経つのは早いもので、私がこの家に来てから2ヶ月程になる。
ここに来るきっかけになったきとりちゃんの出発日はもう明日だ。
当の本人は支度も終わっているし、最後の日はゆっくりしたいとの希望で家にいた。
他の人達は学校だったり、バイトだったりで出掛けていて私と二人きり。
もう習慣となった6人分の食事を準備していると、こちらを覗いている視線。
「それ、終わったらちょっと出掛けない?」
手元で仕込み中の料理を指差しての問いに頷いて答えた。
今日までしか彼女との時間はない。
食事を作るより、その時間の方が優先で、すぐにキリが良い所まで終わるとキッチンから出た。
財布と鍵と携帯。
それだけを持って二人で家を出る。
よく知った街を、よく知った人と歩いているのに会話はなかった。
少し寂しそうに街中を見回しながら歩くきとりちゃんに話し掛ける言葉が見つからない。
無言のまま歩き続けて、通り掛かったスポーツ用品のショップに立ち寄った。
見るのは勿論バレーボールのコーナーで、そこで何故かボールを買っていた。
「ね、公園寄ろうよ。」
今日の私がこの人を拒否する訳なんかなくて、買ったばかりのボールを手に公園に行く。
入り口付近の広く空いた場所で、二人でパスを回していた。
…と、言ってもド素人の私は変な方向に何回も飛ばしている。
彼女には技術があるから、なんとか拾ってくれて繋がっている形だ。