第7章 アルバイト
ホテルから出ても無言で並んで歩く。
変な事を考えていた頭は、家が近付くにつれて正常に戻った。
それでも、あまり話をする事はなく家に辿り着く。
「ただいま戻りました。」
もう癖となってしまっている、帰りの挨拶をすると横から軽いチョップが降ってきた。
「自分の家なんだから少しは寛げよ。」
頭を押さえながら見上げると、黒尾さんは意地の悪い顔をしている。
何と返せば良いか分からず、黙ったまま家に上がってリビングに向かった。
黒尾さんの方は一旦部屋に戻るようで、廊下で別れた。
リビングに入ると見慣れた三人。
軽く挨拶だけしてキッチンに行く。
カウンターに荷物を纏めて置いて、食事の用意に取り掛かった。
「りらちゃーん、今日の晩飯な…に?」
「木兎さん、りらの邪魔はしないで下さ、い。」
カウンター越しに問い掛けてきた人と、それを制止する人。
二人の言葉が何故か途中で違和感を感じるくらい止まった。
「…ふーん。君、結婚するんだ?」
振り返って見ると、二人の様子がおかしいのに気付いたのか、月島さんもこちらに来ていた。
三人の視線の先には、フェアに客として入った時に渡されたパンフレットの封筒。
それと、預かって持って返って来ていたきとりちゃんのデジカメ。
すでにデジカメは赤葦さんの手の中にあって、電源を入れられている。
取り上げようと手を伸ばしたけど、カウンターの幅と身長差に邪魔されて届かない。
回り込む暇はないし、もし回って隣に立っても上に持っていかれたら奪えない。
後で面倒な事を聞かれる覚悟をして、今現在の状態からは逃れるように調理を再開した。