第2章 開かれぬ扉
それは楽しそうに広間を出ていく鶴丸の背中を見送りながら、私は一人ぬるくなった茶を啜る。
鶴丸にとって、三日月が居ない事による利点とは如何なるものか。
しかし、そんな事はいくら考えたところで私に理解出来る筈も無い。
三日月も解せぬ野郎ではあるが、鶴丸国永という男も同様にその類の者だということを忘れていた。
癖が強い者が多すぎる、と思わず溜め息を吐くが類は友を呼ぶと言うなれば己も同様に思われているのかと頭を抱える。
いや、彼奴らよりはましであろうと、そう思いたい。
そんな事よりも今は鶴丸の部屋へ行くべきか否か。
己の部屋へ行きぬしさまの返事を待ちたいものだが果たして何時来るのか、それ以前に返事自体来ないかもしれない。
だとしても、私は今日という日が終わるまで待ち続けるつもりだ。
しかし、そうしたところで万が一鶴丸が部屋へ来てしまったら?
人を待たせることは然程気にも止めないが待つのは得意ではないあの男の事だ。
突然天井から顔を出してくるやもしれぬ。
万が一ぬしさまからの御伝えが来て、それを見られたとしたら非常に芳しくない。
行かねばならぬか……
決して悪い男ではないのだが、何分悪ふざけが過ぎるのだ。
未だに鶴丸の審神者に対しての感情を掴めていない。
探りを入れるつもりではないが、知っておいて今後損にはならない筈故にそれとなく匂わせてみるのも悪くないだろう。
致し方無し、行くしかないのだろうと重い腰を上げる。
それに、三日月が居なくなったというのも気になる。
飄々と何処かへ行ってしまいそうな奴ではあるから心配はないが、何分奴はあまり動くのを好まない。
基本的に茶をしばく他何かをしていることは滅多に見ないのだから、余程の事であるという可能性も否定は出来ない。
確かに、この本丸は逃げようと思えば逃げることは可能だ、という事は耳にしたことがあるが、まさか本当に三日月が消えたというのか……??
いや、逃げたところで恐らく我等は人の姿を保てぬ筈。
万が一にでもそれを求めて、というのであれば……
私は増える疑問を胸に鶴丸の部屋へと向かう。