第2章 開かれぬ扉
広間へと戻ると丁度朝飯を皆食べている時であった。
いつもと変わらぬ素振りで茶を啜る鶴丸の隣へと腰掛ける。
「お、小狐丸か。丁度いいところに来た。三日月の奴を見なかったか?」
「三日月、ですかな?……ふむ、今朝方は見掛けておりませぬが、如何なさった?」
「いやぁ、朝立ち寄った時に部屋に居ないものだからな、先に飯でも食ってるのかと思ったがそういう訳でも無いときたもんだから、気になってな。」
三日月が居ない、というのはあまり無いように思えた。
否、私が気に止めていなかっただけなのかもしれぬが、こうして態々探すようなことは今まで無かったのだ。
「成程、それは確かに珍しいですな。朝からふらふらと出歩く質では無いであろうに。」
「うーん、俺としてはお前さんと一緒に居るもんだと思ってたからなぁ。そうでもないとしたら、どこ行ったんだ?」
「彼奴の行動は皆目見当が付きませぬからなぁ……まぁ、腹が減ればまた現れる筈よ。」
「はっはっは!そりゃそうだが、お前さんは存外あっさりしてるな。心配にはならないのか?」
正直、心配ではないという訳ではない。
しかし、今の私はそれどころではないというのが現状であり、探してやりたいのは山々だが何分、本当に今の私にはその心の余裕が有りはしないのだ。
しかしながら、それを伝えることは叶わぬ。
……幾ら鶴丸だと言うても、ぬしさまの事は伝えるべきでは無いだろう。
「心配と言うても、何を心配すると言うのじゃ。脱走劇の幕切れだとでも言うのならその結末くらいは見届けてやっても構わぬが……奴に限って有り得ぬであろう。」
「ほう……脱走劇とは、また面白いことを言うな!」
「……鶴丸、御主まで妙なことをするのはやめてくだされ。」
「はっはっは、まさかそれを小狐丸に言われるとは驚きだな。……恐らく、三日月は何か考えが有るのだろう。今日辺りは探したところで出てこないさ。流石に脱走はしてないだろうがな。」
「……御冗談を。知っているのならば何故、私にその事を?」
「まぁまぁ、そう気を立てるな。なぁに、今のは建前さ……アイツが居ないなんて、そうあるチャンスじゃ無い。わかるか?」
「……分かりませぬ。」
「お前らしい。……後で俺の部屋に来てくれ。」