第2章 開かれぬ扉
この襖の先に、ぬしさまが…
そう思って、進もうとすれば先程の式紙に遮られた。
この先に行くことは許されぬということか…
無理にでも押し入る事は可能かもしれぬが、そうしたことで得るものは何か。
恐らく、失うものの方が大きいだろう。
ここは冷静に、己を見失わぬよう心掛けながら、ゆっくりと深呼吸をする。
「……ぬしさま、小狐丸に御座います。」
返事は、ない。
だが、その程度のことで気を滅入ってはいられない。
「本日は真に勝手ながら、私が食事をお届けに参りました故、先ずはこの御無礼をお許しくださいませ。」
出来ることなら、直接この手で届けたい。
しかし、目の前の式神はそれを許してはくれないらしい。
仕方無しに、盆を手渡す。
そのまま襖の前で動かない様子を見ると、私が去るまで恐らく睨み合い状態なのだろう。
本当に、この場所にぬしさまが居るのかは分からない。
しかし、今の私はそれを信じるしかなかった。
この声が届いていないとしても、僅かでも可能性があるのだとすれば、私はその可能性にすがりたい。
「では、私これで失礼させて頂きます。……宜しければ、明日もお持ちしたいと思いますが、御許しを頂けますでしょうか。」
心臓が、どくどくと波打つ。
襖の奥から返事は無い。
「……もし、御許しを下さるのであれば、式神に言伝てを下さい。」
そうとだけ言って、私はその場を去った。
伝わっていたのか?そんなもの分かる筈もない。
あれでは独り言ではないか。
襖相手に喋っていたも同然、可笑しな話だ。
しかし、それはあまりにも大きな進歩だった。
何故今回あの場所へ行くことを許されたのかは分からない。
勿論、私が見た夢と手入れ部屋での出来事との関連もあるのかだなんて、分かりはしない。
しかし、関連など無くとも構わぬ。
確かにあの場所にぬしさまはいらっしゃったのだと、そう思うことでひたすらに満たされた思いだった。
明日、またあの場所へ赴くことは許されるであろうか。