第1章 朝焼けの声
張り詰めた空気が流れた。
上手く立ち回ることは、無理だと理解しながらもどうにか逃げ道を探す。
「…心配には及ばぬ。何かあれば話す、それで良いではないか。」
「その何かが、あったのであろう?ならば今話すべきだ。」
「た、ただの夢だと言うておるではないか!」
「嘘を言うな。決して怒っている訳ではないだろう…どんな夢だ?」
「お、覚えておらぬ…。」
「小狐や…視線が泳いでいるぞ?」
そんなに分かりやすい反応をしている筈がない。
それがわざとだとわかっていても、指摘されると意識してしまう。
「嘘を付くと髪を触る癖も直らんなぁ…。」
「、っな!?」
無意識に触れていた髪を慌てて離す。
そんな癖が私にあったか?
三日月を見れば焦る私を他所に突然笑いだす。
「ハッハッハ、…なぁに、そんなものは嘘だ。だが…本質の方は合っていたようだな。」
またもしてやられた。
狐が化かされる等…いや、未だ化かされてはいない。
巧妙な罠に嵌められただけであって…。
どちらにせよ、結果として状況は芳しく無い。
「いい加減話してはくれんか。このままでは夜が明けてしまう。何故、そこまでして隠そうとする。尚更怪しまれるのは当然ではないか。」
「確かに、そうですが……、これ以上無駄な心配をかけたくは無い。ただでさえ今朝のこともあって鶴丸にまで世話になった。そして今回の出陣での失態と…情けないのです。」
咄嗟に出た言い訳にしては良く出来たものだと少し我ながら感心する。
言い訳と言っても、嘘ではない。
これもひとつの本心だと自分に言い聞かせる。
「…そうか。だがな、黙っていられると余計心配になるのだ。小狐丸、分かってくれ。」
そうとまで言われてしまっては諦めるほかない。
それしか今の私には道がないのだ。
「っ、…そもそも、夢なのかすら分からぬのじゃ…。ただ、あまりにも鮮明に感じた故に…。」
三日月の尋問に降参した私は、途切れ途切れに話し始めた。
覚えている限りの事は話した。
そこで偽りを語ることも考えたが、すぐにバレるだろうとやめにした。
後々ボロが出るのを考えればいっそ話してしまった方が楽かもしれぬ。
たがひとつ、その者がぬしさまだろうということは、話さなかった。
これだけは話してはならぬ気がしたのだ。