第1章 朝焼けの声
「御主は…手入れは今回が初めてであったな。驚いただろう?」
「っは、?」
見透かされたかと思った。
「、な…何の事じゃ?」
動揺を隠しきれないどころではない。
あからさまに狼狽えた反応に、墓穴を掘ったと気が付くが遅かった。
「…ここの手入れは式神が行う。初めての者は奇妙で気色が悪いと嫌がる者も多いのだが……何かあったか?」
勘の鋭い三日月が、気が付かない筈もない。
「いえ、きっとまた良からぬ夢でしょう…。」
そうか、と言ってそれ以上は干渉してこないのが、私達の何時ものやり取りである。
あまり深くは聞き入ることを避け、必要以上に踏み入ることを良しとしない。
それが、ここの暗黙の了解である。
そう、その筈である。
「ほう……夢か。手入れの最中に夢を見られる程に余裕があるとは思えぬ。何せあの中は式神達がウヨウヨといるのだ。彼処は…他の気は決して入ることを許されぬ。ただ一つ、例外を除いてはな。」
三日月の視線が、私を貫いて、追い詰められた気にさせる。
まさか、だとは思わぬが…思いの外事は重大のようで。
現に、私に逃げ場などない。
はぐらかすか、大人しく全てを打ち明けるか。
正しいのは恐らく後者であろう。
しかし、そうさせぬ何かが今私の中にある。
昨夜の夢と、此度の手入れ部屋での出来事。
奇妙なこの二つの出来事の理を、きっとこの男は知っているのだ。
「三日月…御主は一体何を、知っておるというのだ。」
「何を、とは?それは俺の台詞だ。ナニがあったのかと聞いているのだ。未だにこの屋敷には良からぬモノが潜んでいる…特に小狐丸、御主にとってはな。」
「私にとっては…?」
「あぁ、俺達…ここに居た者達は耐えられても、御主には些か良くない気が未だに残っている。誰も気が付かぬとしても、潜んでいると、石切丸も言っておる。…小狐丸、御主を心配しているのだ。」