第1章 朝焼けの声
冷えた風が私達の体温を拐っていく。
ぼんやりと朝露に濡れる庭を眺めるのにも冷えた指先が温もりを求め始めた。
「今日は出陣だな。俺と御主と、石切丸もだったか…あと誰がいたかな…」
「…今しばらくすれば伝達が来るでしょう。」
「それもそうだな。しかし、その為にはまず飯だ。もうじき支度が出来る頃だろう。」
屋敷の中へと戻ると、ほとんどの者が朝飯を目当てに起きてきていた。
「おっ、お前らどこ行ってたんだ?」
「ちょいとな、庭を見ていた。いやはや、朝の空気を吸うのもたまには良いものだ。」
広間へ行けば鶴丸が既に朝食に手をつけ始めていた。
「早く持ってこい。魚が足りないらしくてな、早い者勝ちらしいぞ。」
光忠自慢の煮魚が食べられないのは惜しい。
台所へ向かえば何とか間に合った煮魚に御満悦の三日月を横目に、広間へ戻る。
鶴丸は先程と変わらぬ場所で茶を啜っていた。
その隣へと腰を下ろした三日月に続く。
「おお、間に合ったか。良かったな、短刀達が起きる前で。でないと大騒ぎだったぞ。」
「はっはっは、確かにそれは大変そうだ。」
こうしていれば皆、ここでの日常を楽しんでいる様に思える。
刀剣同士の揉め事も少ない。
まさに、傷付いた刀達を癒すには最善の環境なのかもしれない。
「なんだ、小狐丸。浮かない顔して…驚きが足りないんじゃないか?」
「…そうですかな?」
「なぁに、出陣が嫌なだけだろう。なぁ、小狐?」
「それは御主であろう。私を巻き添えにするのはやめぬか。」
「おいおい、俺の質問は無視か?」
「質問?口癖の間違いではないのか?」
他愛もない会話達。
以前の苦痛の日々を忘れたかのように、ここでは誰もが和やかだ。