第1章 朝焼けの声
何故か、笑いが止まらなかった。
三日月はこんな顔をする奴だっただろうか。
「っ、笑い事では無かろう…人の気も知らずに、御主は……。」
まるで何時もと真逆なその様子に余裕が無い三日月は困ったように眉を落とす。
しかし私に釣られてか気が付けば二人笑っていた。
「…えーっと、私の事を忘れてないかい?君達。」
相も変わらず笑い続ける私と三日月に蚊帳の外だった石切丸が割って入る。
「あぁ、申し訳ありませぬ、石切丸殿。お騒がせをしてしまって、何と礼を申せば良いのやら。」
「それを言うのは私ではないよ。誰よりも心配してたのはこの三日月なんだから…君も今見ただろ?」
「えぇ、まさかとは思いましたが、その様ですね。…三日月、迷惑をかけましたな。」
やっと三日月と真剣に向かい合えば、何時もの三日月に戻っていたようであった。
「いや、今回の件は俺の責任だ。無理にでも交代させるべきであったのだろうが、それを知っていて戦に出させたのは隊長である俺だ。御主が謝ることではない…申し訳無かった。」
三日月から頭を下げられるなど思ってもいなかった為に、驚いた。
ふざけた反応をしてしまった己に少し悔いた。
本気で、自らの責任だと感じて私を心配していたというのか、この男は。
そこで朦朧とした意識の中で三日月を見た事を思い出した。
ああ…本当に、私を本丸まで運んだのか…。
「謝ることはありませぬ。御主が、私を本丸まで連れてきてくれたのであろう?薄い記憶ではあるが、覚えておる。…礼を言うぞ。」
お互い、謝ってばかりでは良くない。
笑って礼を言えば少し重かった空気が明るくなる。
「まぁ、無事に手入れもすんだなら何よりだよ。…君達二人がこうしてまた、笑っていられればね。じゃあ、私これでおいとまするよ。」
石切丸が部屋を去ったあと、三日月と向き合えば、穏やかな空気が流れる。
「…もう、何ともないか?」
「えぇ、その様です。」
おどけて言ってみせればいい加減にしないかと軽く嗜められた。
何事もなく、こうして話すことが出来て安堵する。
が、まだひとつ大きな問題があった。
ぬしさまのことを、伝えるか否かだ。
三日月は、ぬしさまのことをどう思っているのだろうか。
然程否定的では無いとは思うのだが、腹の底で何を考えているのかは想像がつかない。