第1章 朝焼けの声
面倒な時間に飯を用意してくれた燭台切に礼を言って、食べ終えた食器を台所へ運ぶ。
三日月とは共に食事をしていたが、話をすることはあまりなかった。
空気が重いという訳ではない。
ただ、どちらも口を開かなかった。
少し一人でゆっくりしたいと思い、一度部屋へ戻ろうとすると、前から石切丸が歩いてくるのが見えた。
石切丸もまた、今日の出陣の部隊に入っている。
「あぁ、三日月殿に小狐丸殿じゃないか。」
「おお、これはこれは…石切丸か。今日も出陣だな。よろしく頼むぞ。」
「こちらこそ、よろしく。とは言ってもまだ時間があるから軽く御祓でもと思ったんだけど…良かったら一緒にどうかな?」
こんな時期に御祓など、出陣前に寝込んでしまうだろうとにこやかに誘ってくる石切丸に思わず苦笑いを浮かべた。
「いえ、私達は先程風呂に入ったばかりですのでね。」
「ああ、さっきのは君達だったのか。随分と賑やかだったけど、どうかしたのかい?」
あぁ、またつまらない墓穴を掘ってしまった気がする。
返答に困っていると三日月が代わりに答えた。
「ああ。ちょいと小狐丸が今朝方体調が悪かったらしくてな。悪い汗を流していた。」
「なるほど、そういうことか。もう大丈夫なのかい?」
「えぇ、お陰様で。」
一瞬何を言われるかとひやひやしたが、上手い助け船となってくれて良かったとほっとする。
「それは良かった。でも、念のために出陣までゆっくりするといいよ。」
「御気遣い感謝いたします。」
妙な質問をされなくて良かった。
あれだけ騒げば聞こえているのは仕方のないことだが、次から気を付けようと心に決める。
否、それ以前に次が無いことを祈る。
「あぁ、そうだ。石切丸、時間が出来た時にでも俺の部屋へ来てくれ。……少し話したいことがある。」
「話?…分かった。必ず向かおう。」
一瞬スッと真剣身を帯びた目をした三日月に、此奴が真面目な話をするのかとどこかふざけた事を考えながら、石切丸が去ると共に私も一人部屋へと向かった。