第1章 朝焼けの声
一人部屋に戻れば敷いたままの布団の上に腰を下ろした。
考えるな、と三日月は言った。
しかし、その様なことを言われたところで無意識の中で行われる事に歯止めをかけるのはまず無理だろう。
ただの夢だ
そう思えばいいのだろうか。
この部屋で襖から通る光を見ていると、今朝の夢を思い出せそうだった。
あの声が何と言っていたか…それすらももう分からないが。
三日月は何故、忘れさせようとするのか、私には分からなかった。
一人になると、無意識にも考えてしまう。
忘れることなど、無理だろうと軽くため息をつきながら襖を開く。
今日は思いの外、風が強い。
また、眠りにつけば同じ夢を見るだろうか。
なんて下らないことを考えては、風にさらわれる木の葉を目で追った。
何故、私だけが皆と違う境遇でこの場に居るのか。
この本丸で顕現されたのは偶然か否か。
居心地の悪さを何処と無く感じる。
楽しげに過ごす彼らを見る度に、何か心の中に蟠りを感じざるを得ない。
私一人が取り残されている様な感覚に陥る。
ザァ、と庭木を揺らす風が通る。
私のこの心の中に居座る暗い感情も共にどこか遠くへと運んでくれはしないだろうか、とそんな事を思いながら、出陣に向けて支度を始める。
ゆっくりと髪を梳いていると、廊下から人の気配がする。
この足音は鶴丸だろうなと考えていれば、案の定聞きなれた声がした。
「…小狐丸、いるか?」
「えぇ、おりますよ。」
返事をすればすぐに襖が開かれる。
「どうだ、調子の方は。」
「お陰様で、もう何とも御座いません。心配をお掛け致しました。」
「そうか……三日月のやつ、えらく心配してやがったからな…万が一今日の出陣を降板させる様なことがあれば、俺に声をかけろと言っておいたんだが、本当に大丈夫か?」
心配そうな表情を向けられる。
三日月といい、鶴丸といい、こんなにも心配性だったかと笑ってしまう。
大丈夫だ、と鶴丸に笑って見せると少しは安心したように視線を合わせる。
「それならいいが、…何となくだが、嫌な予感がするんだ。気を付けてくれよ。」
心配しすぎだ、と思わず苦笑いを浮かべるが、この世に絶対等と言う言葉は存在し得ないのが現実。
ただ一つ、言うとなれば…鶴丸の予感と言うものは、よく当たるということだ。
外は昼だというのに薄暗く、音を鳴らして風が強く吹いていた。
