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白花曼珠沙華【刀剣乱舞】

第1章 朝焼けの声


「全く、お主が下らぬ事を仕出かすからこんな時間になってしまったではないか。」

濡れた髪を乾かしながらはぁ、とため息をついた。
まだ食事にありつけていない事を思い出す。
燭台切に頼めば用意してくれるだろうか、とそんなことを思う。

「良いではないか。…御主はいつも冴えない顔をしているからな。久々に張りのある声を聞けて俺は楽しかったぞ?」
「人を玩具にするのはご遠慮ください。」
「玩具等と、そんな事を思ったことは無いのだがなぁ…。」

同じように髪を乾かす三日月が、隣で困ったように笑う。
確かに、人を玩具にしているというのは些か言い過ぎかもしれない。
しかし、否定できないようなところがあるのもまた確か。
そういった点では、まだ鶴丸の方が純粋に驚かすことが好きだという理由のみで動いている限り、まだましだ。
この男は真意が掴めぬ事が多いだけあって、質が悪いのだ。

着替えを済ませて広間へと向かう。
食事の支度を頼むと共に出陣の時間を確認すれば、まだ余裕があった。

さすがに今すぐに出陣では少々酷だったが、ゆっくりと休む時間があるので思わず安堵のため息が出た。

飯を待つ間、余計なことを考えないようにするが、今朝の事から先程の三日月の言葉までが気が付けば思考を支配する。
そんな事を分かっているのか、いないのか、気にも止めた様子すらなく隣にいる三日月を横目に外を見た。

空気は冷えるが、日差しは暖かい。
少し遠いが、畑のある辺りで人影が見える。
きっと鶴丸だろうとその姿をぼんやりと眺めた。

「なぁ、小狐丸…御主はこの本丸が嫌いか?」

また、唐突だな、と横の相手を見ては目を細める。

「……嫌い、という訳ではありませぬ。」
「しかし、好きではない。というわけか。」

私の口から返事が出ることはない。
遠くから聞こえる、稽古中であろう声が響くだけだった。
沈黙は肯定と取られただろう。
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