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白花曼珠沙華【刀剣乱舞】

第1章 朝焼けの声


「…意識はしっかりしているな?…ほれ、握り返してみよ。」

体を支えられたまま、空いた片手を取られる。

その握られた手を言われた通りに握り返してみたが、そこまでの力は入っていない。
だが、先程のように全く力が入らない訳ではなかったので、寝起き故の何かだろうということにしておきたい。

鶴丸が心配そうに私の様子を見ている。

私はそんな大袈裟な、とどこか他人事のようだった。

「ふむ…やはり少し弱いな。」
「おいおい、今日も出陣じゃなかったか?何なら俺が変わってやるぞ?」

その言葉に何故か焦りが出る。
戦に出てもいないのに、負傷者扱いではたまったものではない。

「いえ、大丈夫です。今のは驚いただけですから……。」

手足に意識を集中させ、ゆっくりと体を持ち上げた。

無理をするな、と声をかけられるがそうも言ってはいられないだろう。
情けない姿は流石に親しい間柄とはいえ、仲間に見せるものではない。

多少時間はかかったが、立ち上がることが出来た。
動かなかった手足は次第に油をさしたように動くようになる。

「本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。出陣とはいえ、昨日と変わらぬ場所、心配には及びません。」

納得のいかない顔をする鶴丸だが、出陣メンバーの変更の主旨を伝えたところで取り合ってもらえるかは分からなかった。
些細なことだが、主に意見をするという時点で、ここではその前例が無い。

「とにかく……一先ず風呂に入るのが一番だな。寝汗は体に毒だぞ。」
「ええ……そうですね。このままでは気分が悪いですから。」

意識してみると汗をかいているのは勿論の事、前髪は額に張り付き、後ろ髪も乱れている。

「俺は生憎これから畑当番だから三日月、後は頼んだぞ!」
「あいわかった。……ほれ、行くぞ。」

肩を支えようとしてくる三日月に、流石に大袈裟だろうと断った。

「自分一人で風呂にも入れぬなら刀等やっていられませぬ。」
「今の御主にはそれが分からぬからこうして付いてやるのだろう。風呂で倒れられでもしたらそれこそ敵わぬ……付き添いくらいは許せよ。」

風呂を付き添われる等、まるで幼子ではないか、と小さく唸るが、先程の様子を見られていたら仕方のないことか。

俺も朝風呂に入りたかったのだと口にする三日月を他所に、今朝の事の原因を考えながら風呂へと向かった。
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