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白花曼珠沙華【刀剣乱舞】

第1章 朝焼けの声


とても悲しそうな瞳が、私を見下ろしている。

そんな顔をさせたいのではない。
動かない事すら忘れて、ただ手を伸ばそうとした。
届いて欲しい。

何としても、触れたかった。
一度でもいい、たった一度で構わない。

触れたいと心から思った。


途端、反転する視界。

深い穴の中を一気に落ちていくような浮遊感。
どこまでも、底無しかと思うほどに落ちていく。
視界は真っ暗で本当に穴の中に落ちたのか、もしくは意識だけ失っているのか、分からなかった。

そんな中で小さな光が見えた気がした。

奥底で小さくも手招いている。
きっと暖かな光だろう。

しかし、私にはその光が堪らなく恐ろしいものに思えた。

明るく、輝いた空間が広がっているであろうそこが怖くて仕方がなかった。
長い長い時間を落ちていった。

しかし光は一向に近付く事はない。
恐ろしい光はその場でじっと私が落ちてくるのを待っている。
時折キラリと強く光っている。

私は咄嗟に理解した。

あぁ、これは夢なのだと。
わかっている筈であったのに、理解したのは今だった。

ここが夢ならば、あの光の先は目覚めた世界だろう。

目覚める事がなければ、恐ろしい光の中へ行くこともない。

ならば、このまま目覚めなければいい。

この夢から目覚めては、ならない。


私は明るく輝き続ける光から目を逸らした。

またあの声を、私の名を呼ぶ声を聞ける事を願いながら。
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