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白花曼珠沙華【刀剣乱舞】

第1章 朝焼けの声





暗がりの中、声がする。

私の名を呼ぶ、その声は透き通るようで力強くもあった。

冷たく暗い部屋の中で私はこの場から出て行くのを拒んでいるかのように、すがっていた。

次第に冷えていく指先から感覚が鈍り、乾いた布と擦れる痛みだけが残る。
立っていることもままならない体は床に膝を付き、薄明かりの中で声の主を探し続ける。

「……っ、…」

私の喉は掠れ、声にならない声が漏れただけで終わる。
叫んでいるのか、囁いているのかすら分からなくなりながら私は探し続けていた。
この部屋が広いのか、狭いのかすら分からない。
それなのに見付からない、届かない、私の名を呼ぶ声が遠退いてしまわないように必死に腕を伸ばす。

何も分からなかった。
それが私にはまた恐怖を与えた。

どうかやめないで。

私の名を呼び続けて。

伸ばした腕も届かず、動きの鈍った玩具の様にまともに顔を上げることすらままならなくなる。


寒い。
もう手足の感覚はない。
痛みすら無くなっていき、それが堪らなく嫌だった。

この痛みは手放してはならない。そんな気がしていた。

近くで声がする。
何と言っているのかは分からない。

それに対して、拒否する私がいる。
夢と言うものは現実の意識を無視して進んでいくものだ。

この場から、この部屋から出たくなかった。
駄々をこねる子供のようだとも思った。
それでも私は必死に拒んだ。

体が動かなくなっても構わない。

私は残った最後の力で顔を上げる。
そこには求めていたものがあった。

黒い黒い、悲しそうな瞳だった。
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