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白花曼珠沙華【刀剣乱舞】

第1章 朝焼けの声




燭台切の話を聞いて、此処に来た時の事を思い出していた。
しかし、どこか記憶がほんやりとしていて曖昧にしか思い出すことができない。
正直、己の事ながら気味が悪いと、そう感じた。
己自身の事であるにも関わらず、記憶に無い事が起きていたという事実がどこか寒心に堪えない。

これ以上考えたところで無い筈の記憶が戻ってくる訳でも無いのだから、気にすることも無いだろう。
そう思うのに、気が付けば無意識のうちに考えている。

はぁ、と思わず漏れたため息は立ち込める湯気の中に消えた。
これ以上湯に浸かって答えの無い疑問に思い悩んだところで逆上せるだけだ。
私以外誰もいない風呂から上がれば湯から上がった体の熱を触れた空気に奪われる。
室内とはいえ、寒くなってきた。

燭台切とはあの話をした後、そう遅くなく別れた。

気が付けば出陣後だというのに、風呂に入るのがこんなにも遅くなってしまった。
これでは毛並みが悪くなってしまう、なんてぼやきながら濡れた髪を乾かす。
着替えを済ませ部屋へと戻る途中、遠くで相も変わらず賑やかな声がする。
暇さえあれば酒盛りを始めるのは如何なものかと思いさえした。

そんな賑やかな喧騒から離れていき静かになる廊下でも、灯りの灯る部屋で小さな笑い声が漏れた。
楽しげな笑い声と、今の私との温度差を感じては濡れた髪から滴り落ちる雫を追うようにして目を閉じた。

何故だろうか、燭台切と話してからというもの、なんとも言えぬ侘しさがこの身を纏う。

いや、以前からその様な気持ちになることはあったが、今回のは少し違う気がするのだ。

何かを忘れている。
その何かが分からないまま、私は湿った髪を大して乾かすこともせずに布団へと潜り込んだ。
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