第1章 朝焼けの声
小狐丸が顕現された事は近侍を通して伝えられた。
新しい刀剣男子に皆、そうかとでも言った様子で然程気にはしなかった。
しかし、いつまで経っても姿を現さない小狐丸に流石に怪しむ声が出てきた。
本当にこの本丸にいるのか、何をしてるのか、何処にいるのか。
そんな疑問が刀剣男子達の中で話されていた。
近侍に問いただしても、場所までは聞いていない、と言う。
しかし、この本丸にいるのは確かだろうという言葉に動きを見せたのは鶴丸と三日月だった。
自ら姿を見せぬと言うのであれば此方から探せばよかろうと、屋敷内を探し始めたのだ。
存外、目当ての人物は早くに見付かった。
小狐丸は、未だ使われていなかった刀剣達に当てられた部屋の一室で、眠っていた。
数多くの式神に囲われて。
ただ、眠っているだけの様にも見えたが、このまま目を冷ますことが無いのではないかと、そう思ってしまう程に静かに眠っていた。
丁度朝の日の入る部屋であった為、光に照された髪が絹糸の様な光沢を輝かせていた。
その様は異様であったと、二人は言う。
死んだように眠る小狐丸を、式神達が何もものを言わないのは勿論、ごく僅かな物音ですら立てることもせずにその姿を見守っていた。
近付く事も、部屋に入ることすら躊躇ったが二人の存在に気が付いた式神達が二人を招き入れた。
声を掛ければ目を覚ますと思ったが、小狐丸の瞳が開かれることはなく、悩んだ二人は一先ず皆の元へ戻ることにした。
まずは審神者に伝えられた通り、小狐丸がこの本丸に居ることに安堵したが、当の本人が目覚めないという事態に動揺する者もいた。
すぐに動ける何人かを連れて部屋へと戻ることにした。
すると先程まで静かに眠っていた小狐丸が目に見えて魘されている。
何やら妙な気が憑いていると言う石切丸がその場で祓えば、すぐに呼吸は調った。
目覚めなかったのも今のが原因だろう。
きっとこの本丸が浄化されたとはいえ、新しく来た者には少し合わないのかもしれない。
そういう話でまとまった。
穏やかに眠る小狐丸を隣に話をしていれば何時しか式神達も去って行き、そしてその日の夜には小狐丸は目を覚ました。
体調の悪さもなければ何も覚えていないという言葉に安堵して、すぐに皆と同じ生活を始めたのでそれ以上気にするものも居らず、とんだお騒がせだったなと笑った程だった。
