第13章 DAY6 最後の赤き晩餐
夕暮れ時。
赤の兵舎とは、これでお別れだ。
「ねぇ、本当にここで良かったの?」
隣に座るヨナが呆れたように言う。
「そう、ここが良かったの」
最後の夜。
セントラル地区の高級レストランを、というヨナの提案を断り、
レイアはヨナの部屋で過ごしたいと頼んだ。
並んで座るソファの前には
いつもの食事が並んでいる。
赤の兵舎の食事もとても美味しい。
ルカの料理とはまた違った美味しさがある。
「ねぇ、ヨナ」
食事をしながら、レイアは隣に座るヨナに話しかける。
「何?」
「…儀式が全て終わって、私が誰か一人を選んで…その後は平和的に解決できるのかな」
「それはわからないよ。どちらかが武力で決着をつけたい、となれば結局開戦する。
その時にレイアがいる方の軍が圧倒的有利になる…ただそれだけのことだ」
淡々と話すヨナの横顔は軍人のそれだ。
美しい整った顔立ちだが、目の色と表情は誇り高きクイーンの色を宿している。
「……ランスロット様は…私にヨナを選んで欲しがってるんだよね」
「………」
先日の一件を思い出したのか、ヨナの表情が陰る。
「……俺はランスロット様と赤の軍に、勝利をもたらしたいと願っているよ。でも君に俺を選ぶよう強要する気もない」
「…ヨナ……」
ヨナはレイアを見やり、ふっと笑う。
「まぁ黒の軍のもてなしが、俺にかなうわけないとは思うけどね」
つられてレイアも笑ってしまう。
「でもルカのごはんはすごく美味しいよ」
「当たり前だよ!ルカの料理は世界一だ…唯一負ける可能性があるのはそこだけだ!」
照れくさそうに顔を背けてそう言うヨナは少し可愛い。
「……本当に、ルカのことが大事なんだね」
「ルカは…ずっと俺が守ってきた大事な弟だ。…ルカの存在が俺を強くしてくれた部分もある」
「えっ」
ヨナが柔らかく笑みながら、懐かしむように語り出す。
「……ランスロット様との出会いが、俺を強くする最大のきっかけではあった。
でもそれは、大事な存在を守るため、自分を守ることで大事な人を傷つけないためでもあるんだ…
それを教えてくれたのは…ルカなんだ」
「そっか…」
二人の間にはきっと見えない強い絆がある。