第10章 4th night 【レイ・ブラックウェル】
溜まっていた雑務を終え、私室に戻ったヨナは
時計を見やり、0時少し前なのを確認した。
(……軽く仮眠して、早めに出発するか)
軍服を脱ぎ、淡いピンクのシャツの胸元を緩め、ソファに身体を沈める。
(………あと、2日か…)
2日後の夜が終われば、彼女はその足で黒の軍へ身を移し
…赤の軍が主人となる。
夕刻、談話室で行われた会議の内容をふと思い出す。
………
「…先日話した通り、俺は月小屋の儀式には参加しない。ヨナ、エドガー、カイル、ゼロ…お前たちは全員儀式参加をしてアリスの力を確実に得ろ」
「はい」
ランスロットの言葉に
一同が返事をする。
「俺が行く日の分はアリスに指名をさせる。実質アリスは2度指名をするということだ。誰が当たっても確実に魔法の力を得て来るのだ」
「分かりました」
………
ヨナの心は複雑だった。
いくら儀式とはいえ、レイアを抱くことは己の正義に反しているような気がした。
彼女の力がなくても、赤の軍は黒の軍に負けるはずがない。
それに、彼女一人が毎晩身を削るという理不尽さも
ヨナには許しがたいことだった。
(こうしている……今も…)
ヨナの胸の中に僅かな痛みが落とされる。
(何なんだよ……このモヤモヤした気持ちは…)
苛立つ気持ちを何とかしようとヨナは窓を開けようと思い、窓辺へ向かった。
すると、一台の馬車がやってきた。
(ん…誰だこんな時間に)
ヨナは不審に思い、馬車から降りる人物に注視する。
(………あ、あれは!)
その人物の姿を確認した瞬間
ヨナは勝手に身体が玄関口へ向かって動いていた。
「レイア!!」
入り口の警備兵のところにいたレイアの元へ、ヨナは駆け寄った。
「ヨナ…」
「一体どういうこと…?」
状況の読めないヨナは、既に去っていった馬車の後ろ姿とレイアを交互に見る。
「……ブランさんに送ってもらったの」
「…なぜ?」
「……えっと」
俯き言い淀むレイアを見て、ヨナは彼女の手を取る。
「とりあえず…俺の部屋で話聞かせて」