第10章 4th night 【レイ・ブラックウェル】
黒の兵舎。
談話室には、フェンリルと
先程戻ってきたレイの二人が残っていた。
「ホントに手ぇ出さずに帰ってきたんだな、相棒」
「……」
レイはフェンリルと目を合わせず、ソファに身体を沈めて長いため息をつく。
「……抱かなかったんだよな?」
「ああ」
レイの様子のおかしさにフェンリルが気づく。
「……つまみ食いしたろ、レイ」
レイは答えず天井を仰ぎ見る。
「おいおい……図星かよー…」
フェンリルは苦笑いを浮かべ、ソファから投げ出されたレイの足を軽く小突いた。
「………お前らの気持ち、少しわかった、かも」
「珍しいな、お前が女に我を失うなんてなー」
「らしくねぇ……俺が一番わかってる」
レイはふっと自嘲の笑みを浮かべ、フェンリルの方を見やる。
「他の連中は?」
「あ?知らねー。ルカは台所の片付けしてたけどなー」
「そっか…」
ちょうどその時、談話室の扉を叩く音がした。
「レイ、戻ってるか」
「ああ」
返事を返すと、中に入ってきたのはシリウスだった。
「レイ、ブランが来たんだが」
「ブランが?」
レイは心当たりがなく眉根を少し寄せる。
「お前に会いたいそうだ。通していいか?」
「…ああ」
程なくして、シリウスはブランを談話室へ連れてきた。
「夜遅くにすまないね…手短に済ませるよ」
「いや…で、何の用だ?」
レイは目の前の椅子へブランを促す。
「大した用ではないんだけれど、一応君の耳に入れておきたくて」
ブランは勧められた椅子へ腰掛け、柔和な笑みを浮かべる。
「フェンリルから今回の件を聞いてね、今しがたレイアの元へ行ってきたんだ」
「……」
レイは表情を変えずに黙っている。
「彼女……レイに残っていて欲しかったようだよ?」
「……?!」
ブランの意外な言葉に目を見開く。
「彼女の身体を気遣ったのは良かったけれど、一人であの場所に残るのは少し寂しかったようだね」
「………」
「赤の兵舎に戻りたいと言うから今送ってきたところだよ」
レイは押し黙っている。
「…もし、彼女が最終日に君を指名することがあれば…手厚くもてなしてあげてくれるかい?」
「………指名があれば、な」
表情の読めない顔のレイに、ブランはにっこり笑って談話室を去っていった。