第10章 4th night 【レイ・ブラックウェル】
ブランが介入したことに何かトラブルが発生したのかと案じていたヨナは、
理由を聞いてほっと胸をなで下ろした。
「…部下の非礼を詫びるために自らが魔力を得る権利を捨てたということか……キングだけあって一応筋は通しているようだね」
レイアはレイが魔法を使えること、そして唇を重ねられたことは黙っていた。
胸の奥にしまってある真実の重たさに少しだけ表情を曇らせていると
ヨナはふっと笑みをこぼしてレイアの髪をひと房耳にかけるようにかき上げた。
「…ぁ……」
「…それで、一人ぼっちで眠れなくて帰りたいとブランに頼んだというわけだね…君って人は」
レイアが見上げると、ヨナの笑みはいつもの高飛車な色はなく、優しい包むような色をしていた。
「…ほんと、どうしようもない子だね」
「ヨナ…」
ヨナの指先が、レイアの頬を捉える。
「放っておけなくなる…不思議な子」
レイアはヨナの琥珀色の瞳に吸い込まれそうになる。
…対するヨナも、レイアの瞳に縫いとめられてしまっている。
「………」
ヨナの手が、レイアの頬に添えられたまま
お互いの瞳が、映り込むほどに近づいていく。
「………」
鼻先が触れあいそうな距離。
レイアのまつげが伏せられる。
レイアの唇に、ヨナの吐息がかかる。
「………」
ヨナの唇が、重なりそうになったその瞬間
「……っ!」
ヨナは我に返ったようにばっとレイアから離れた。
驚き目を見開くレイアの目の前には
真っ赤な顔を背けているヨナがいた。
「へ……部屋まで送る!」
そのまますっと立ち上がり、部屋の扉のところまでつかつかと歩いていく。
そして
茫然としたままソファに座ったままのレイアを振り返ると
「……な、何か期待してたの?!そんながっかりした顔して…さぁ、早く部屋に戻るよ?!」
照れ隠しのヨナの言葉が、レイアの顔を後からじわじわと赤く染めていった。