第10章 4th night 【レイ・ブラックウェル】
レイが残していったぬくもりと感覚が身体のあちこちに残り
レイアの胸の奥にざわめきが残った。
先ほどまで塞がれ犯されていた唇を
そっと指でなぞる。
(…レイ……)
誰もいなくなった月小屋。
人の気配や温度のなくなった部屋がこんなにも自分を切なくしめつけるとは思わなかった。
毎晩抱かれ続ける運命を呪い
夕暮れ時を恨むような思いで過ごしていたはずだったのに
いざ誰もいなくなった月小屋に残されると
レイアは目にこみ上げてくるものを止めることができなかった。
(私は…レイに抱かれたかったの?)
期待してた?
(…いつからこんな……私は…)
欲張りになったの…?
零れ落ちる涙を止められないまま
その場に立ち尽くしていると
リリン…
突然呼び鈴が鳴り、レイアはびくんと肩を揺らした。
(えっ…誰だろう…)
レイが戻ってきたのだろうか…
「は…はい」
上ずりそうな声を押さえながら
レイアは恐る恐る扉を開けた。
「……あ!」
そこに居たのは意外な人物だった。
「………こんばんは、レイア」
レイアは突然の来訪者を中へ招き入れ、再びお茶の用意をした。
「ブランさんが来るって分かってたら、パウンドケーキ少し残しておくんだった」
「いいんだよ、レイア…君に会えたことが僕にとっての甘いデザートのようなものだからね」
ブランのセリフは相変わらず甘い言葉で埋め尽くされている。
「どうしてブランさんはここへ?」
紅茶をカップに注ぎながらレイアは尋ねた。
「実は昼間、フェンリルが僕のところへ来たついでに、セスの件とレイの来訪の件を聞いてね…やはりレイは帰ったんだね」
「はい」
ブランはカップに注がれた紅茶の香りを楽しむように目を伏せて呟いた。
「レイらしいね…。ところでレイア、君の方は大丈夫なのかな」
「えっ…」
「僕は女性が涙を流しているのを放っておくことはできなくてね…理由を聞かせてくれたら嬉しいんだけど…?」
拭いきれなかった涙の後を、はっとなってレイアが擦ると、ブランはその手をそっと取った。
「隠さなくていいんだよ、僕は君の味方だからね」