第10章 4th night 【レイ・ブラックウェル】
月小屋向かう、揺れる馬車の中。
いつもはなにかと喋り出すヨナが今日は大人しい。
複雑な表情のまま
窓の外を眺めている。
(どうしたのかな……)
「ヨナ?」
たまりかねて、レイアの方から声を掛ける。
「…何?」
ヨナは窓の外から視線を外さずに返事をする。
「あの…今日いつもと違うね」
「そう?俺は同じだけど」
「何か気になることでもあるの?」
「……べ、別に」
ヨナの横顔が明らかに動揺している。
「……」
「……」
しばしの沈黙が流れ。
「ヨナ…」
「…だから、何?」
「……早く、迎えに来てね」
「………っ!」
真っ赤な顔のヨナがレイアの方を向く。
「…い、いつも早く迎えに行ってるだろう?!それなら君も…たまには早起きして俺を待ってなよね…」
「うん、わかった」
ヨナは顔を染めたまま、まだ何か言いたげに目線を泳がせると、ため息混じりに続けた。
「あのさ……レイア…一昨日の晩って……」
「…え?」
躊躇いながら言葉を続けようとする。
「……ルカが、来たんだろ?」
「あ……」
迎えに来てくれたゼロの言葉を思い出す。
溺愛している弟、ルカ。
おそらく複雑な気持ちを抱えているのだろう。
何と言ったらいいのか分からず、レイアは黙って頷いた。
ヨナは再び長い溜息を吐く。
「……兄としては正直複雑だよ…あの可愛いルカが女性を抱くなんて…想像もできないし……したくもない」
「…ヨナ……」
「でも君だって望んでいるわけではない…誰にもこの気持ちがぶつけられないじゃないか…」
「…そうだね……でも」
言うのを少しためらったが、レイアは続ける。
「ルカは…一番優しかった」
「…!」
ヨナは目を見開いてレイアを見返す。
「ヨナもルカも…とても優しいと思う」
「……あ、当たり前だろ?!俺の可愛いルカは世界で一番優しくていい子なんだ…言われなくてもこの俺が一番知ってる」
あからさまな照れ隠しを言いながら、ヨナは目を泳がせる。
「…うん、そうだね」
レイアの柔らかい笑みにつられて
ヨナもついふっと微笑んだ。
月小屋は、もうすぐそこだ。