第10章 4th night 【レイ・ブラックウェル】
朝方の僅かな仮眠しか取れなかったレイアは
ヨナと共に赤の兵舎に戻った後、昼過ぎまで眠っていた。
外から聞こえる、兵士たちの訓練の掛け声で目を覚ます。
「……ん…」
ベッドから身を起こし、窓際へ向かう。
整列し、剣を振るう兵士たちの先頭で
ヨナが取り仕切っている。
(…ヨナ、お仕事中か…)
ふと、朝の出来事が脳裏をよぎる。
ヨナの用意してくれたいい香りのお風呂に入り
そのまま赤の兵舎へ戻って朝食を採り
…眠るまでそばにいてくれた。
「君は誰かがいないと眠らなそうだから特別にそばにいてあげる」
なんて言っていたけれど、それが遠回しな彼の優しさだということは、短い期間だけでも共に過ごしていて分かる。
(今晩は……シリウスさん、だったっけ)
どんな人物かも分からないうえ
昨夜のようなことが起きる「可能性」があることを考えると
レイアの胸の中は少し重苦しくなっていった。
何度も蹂躙されることに苦痛を感じながらも
与えられた快楽がそれを上回っていたことも、おぼろげな記憶の中に残っている。
(私……どこかで…)
望んでいたり、期待したりしてる…?
(いやそんなことは…あり得ない)
夕暮れが近付くにつれて募る焦燥感、やりきれない思い、不安、僅かな恐怖。
これが消えることはない。
(大体彼らは戦うため…力を得るためにこの儀式を行ってるんだもの)
ふと窓の外のヨナに視線を戻す。
(ヨナは抱きたいとも思わないなんて言ってたけど…力のためなら変わってしまうのかな)
優しくしてくれているヨナと月小屋で一夜を明かす日が来ることに、恐れと期待という相反する気持ちが入り混じっているのを
レイアは自覚せずにいた。
やがて終了時刻なのか訓練兵たちは解散していき、いつの間にかヨナの姿はなかった。
日の光がわずかにオレンジ色を帯びだし、西に傾き始める。
(また今日もこの時間が)
長い溜息を一つついて、レイアは身支度を始めた。