第5章 DAY2 黒の兵舎
フェンリルが
一晩で得た生々しい『情報』の共有を受け
かなり気持ちが重くなったルカは、買い出しのために外へ出た。
外の花壇には、いつものようにシリウスが花に水をやっている。
「ルカ、買い出しか」
「うん……今日の夕食、デザートを頑張ろうと思って」
「そうか…なんか手伝うか?」
ルカは弱々しく笑みながら首を横に振る。
「大丈夫」
「ん…そうか。あまり深刻に考えるなよ」
「…うん、ありがとうシリウス」
シリウスはふっと優しく微笑みながらルカの頭をぽん、と撫でる。
「…きっとアリスはお前以上に不安なはずだ」
「……!」
シリウスの言葉にルカははっとなる。
「不安なアリスを笑顔にするデザート、作ってやれよ」
「…うん、そうする」
ルカは何かが吹っ切れたように微笑むと
セントラル地区へ買い出しに向かった。
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初日はヨナがほぼつきっきりで一緒に居てくれたが
彼らも一応軍人なので
やはり訓練や会議など、やることはいろいろとあるようだ。
今日レイアの元を訪れる者はいなかった。
(さすがに暇かな)
特に外出の制限はない、と言われたものの
どこに何があるのかも分からないし
かといって誰かに案内してもらうのも気が引ける。
(とりあえず…庭にでも出てみようかな…)
ミントグリーンのワンピースを着たレイアは
赤の兵舎の庭を歩くことにした。
手入れの行き届いた赤いバラの咲き誇る庭は
いい香りが漂い、歩いているだけで気分転換になった。
(はぁ…とってもいい香り。癒される)
空は澄み切った青空だ。
陽気も、暑くもなく寒くもない。穏やか過ぎるほど心地よい。
(こんなにも気持ちのいい世界なのに)
戦争勃発寸前で…
その鍵は自分が握っている。
(今日来るのは確か…)
あの美味しいデザートとミートパイを作ってくれた
(ルカ、だったよね)
ガーデンでの夜、会っているはずだが記憶には残っていない。
(フェンリルは大人しくて優しいって言ってたけど)
不安があることに変わりはない。
(そうだ、私も何か作ろうかな…)
レイアはふと思いついたように
兵舎の方へと踵を返した。