第35章 Last 2days【別れ】
正午過ぎ
赤の兵舎。
談話室兼食堂に入ってきたヨナを、既にいたエドガーが迎える。
「お疲れさまでした、ヨナさん」
「あぁ、エドガーか…お疲れ」
ヨナの声は僅かに力がない。
「今日はまた一段と覇気のない太刀筋でしたね、ヨナさん?」
エドガーの向かい側に座ったヨナは眉根を寄せる。
「……喧嘩売ってんの?エド」
「いえまさか……ただ、レイアさんが元の世界に帰られてより一層元気がないように見えただけです。これでも一応心配しているんですよ?」
「そうは思えない言い方だけど…」
エドガーはくすくす笑いながら、ヨナの目の前に封書を差し出した。
「………何これ」
「先ほどヨナさん宛に届いた手紙です」
「手紙?」
ヨナは封書に手を伸ばす。
「お菓子にラブレターまで貰って……ほんとに愛されてたんですねぇ、ヨナさん」
「えっ?」
封書の裏に書かれた差出人の名前は、昨日の夜からずっと考えている人の名前だ。
エドガーの視線も気にせず、ヨナは封書を急いで開ける。
「…………」
「……さて、俺はラブレターを読んでる人の顔を見つめるような趣味は無いので、そろそろ失礼させて頂きますね」
立ち去るエドガーに気づかないのか、ヨナは返事もせずに手紙に見入っていた。
ヨナへ
クレイドルに来てからの1ヶ月間、本当にありがとう。
いろいろなことがあったけれど、こうして無事にもとの世界に帰れるのはヨナのおかげです。
抗うことのできないあの夜の中で、ヨナの前でだけは素直な自分のままでいられたの。
私は…ヨナのことが一番好き。
だからこそ、深く傷つけてしまったことを申し訳なく思ってます。
黒の軍のみんなのことも、赤の軍の他のみんなと同じくらい大切です。それも嘘じゃない。
私は月小屋の宴で、抱かれることに慣れてしまったヒドい人間です。
これから先また、ヨナを傷つけるようなことがあるかもしれないから…。
ヨナは…赤のクイーンの名に相応しい、素敵な人にこれから出会えると思う。
大好きだよ、ヨナ。
元の世界から、ずっとあなたの幸せを願ってる。
ありがとう。
レイア
(なんだよこれ……)
ヨナは、体中の血液が逆流するような感覚になる。
(なんなんだよ……これは…!!)