第35章 Last 2days【別れ】
怒りに身を任せ、ヨナは外に飛び出し馬に乗る。
「ヨナ様!外出ですか?」
入り口の門番の声すらヨナには届かない。
ヨナを乗せた馬は赤の領地を駆け抜ける。
(一体何なんだよ……あれじゃまるで)
もう二度とここには戻らないみたいじゃないか…!
どこを走っても、もうレイアの姿はない。
あるはずがないのだ。
それでも。
走らずにはいられない。
(君って人は……どこまでバカなんだ…!)
気づくとヨナはいつの間にか、セントラルにある公会堂の前にいた。
今は昼間だし、もう満月は過ぎた。
いるわけがないのだ。
痛いほどわかっているはずなのに、何故かここへ来てしまった。
「…………」
ヨナは騎乗のままでガーデンを見上げる。
(俺の幸せを願うと言いながら戻らないなんて……矛盾にも程があるよ…!)
「……そこにいるのはヨナか」
声をかけられ、ヨナははっとする。
「……ランスロット様!」
ヨナは馬から降りると、公会堂から出てきたランスロットに敬礼した。
「こんなところで何をしている」
「あ………いえ、何も……」
歯切れの悪い返事をするヨナはランスロットと目を合わせることができずに俯く。
「まぁいい。用が済んだら早く戻れ。……それと」
ランスロットの口角が僅かに上がる。
「……己の欲するものはどんなことをしても手に入れろ。我が右腕よ…」
「………っ!ランスロットさ……」
言いかけるヨナに背を向けたランスロットは、そのまま待たせていた馬車に乗り込み去っていってしまった。
(………)
ヨナは胸ポケットにしまいこんだ真紅のリボンを、上からそっと撫でて、空を仰いだ。