第35章 Last 2days【別れ】
ヨナの舌が奥深くまで絡み、荒々しく深まっていく。
(……だめ…これ以上は………)
身体が火照り切る前にレイアはヨナの胸に手をつく。
「……ん…ヨナ………」
「必ず俺のところに戻って……これは命令だよ」
そう言ってヨナはレイアの胸ポケットに何かを入れる。
「これは?」
「……香水。気に入るかどうか分からないけど」
レイアはポケットの上から小さな香水瓶の感触を確かめる。
「ありがとう……」
その言葉に、ヨナがふんわりと微笑む。
(……あれ以来初めて笑ってくれた…)
「じゃあ……帰るね…」
月明かりがより一層輝いて辺りを照らす。
荷物を持ち、レイアはヨナに背を向けて穴の淵に立った。
(ヨナ……ありがとう…元気でね)
重心を前に傾けようとしたその時だった。
「…………レイアっっっ!!!」
後ろから、ヨナが強く手を引く。
身体が翻り、ヨナの唇が再び重なる。
(………んんっ…)
「………愛してる、レイア」
抱きとめられた身体が離され
レイアは穴の中へ落ちてゆく。
最後に見えたのは
琥珀色の、きらめく瞳と
真紅のリボン。
煌めく不思議なトンネルを
登っているのか落ちているのかわからない感覚のまま
レイアは進んでいく。
(ヨナ……私、忘れない。でも……)
ヨナは私のことなんか忘れて。
クレイドルに来たことも
月小屋の宴も
ただのアクシデントだったんだ。
(ヨナ……)
涙が止まらない。
帰らない、と決めて書いた手紙たちは
きっと明日みんなのところへ届くはずだ。
レイアは、ポケットの上から香水瓶を握りしめ
こぼれゆく涙が穴の奥へ落ちていくのをただただ見つめているのだった。