第35章 Last 2days【別れ】
「ヨ、ヨナ!!」
ばつの悪そうな顔のヨナがそこにうずくまっていた。
「な、なんでこんなところに…?」
「た、たまたまだよ!その……この間ここに来た時に大事なものを失くして、それを探してたんだ!それだけだよ!」
相変わらずごまかし方のレベルが底辺なヨナは、草の付いた服をはたいて立ち上がる。
「……君にしては上出来だったよ」
「え?」
ヨナは目を合わせずに言った。
「マカロンとマドレーヌ…部屋に届けてあったのは、君が作ったものだろ?」
「うん。直接渡したかったんだけど会えなかったから…ごめんね」
「仕事で不在にしてたのは俺の方だ、謝罪は不要だよ」
レイアは荷物を持つ手にぐっと力を込めた。
「……ありがとう、ヨナ」
「………っ」
息を飲んだヨナはようやくレイアの顔を見た。
痛々しいほどの笑顔を浮かべるレイアの瞳からは、涙がこぼれる。
「この世界を…大好きになれたのも、自分自身が壊れずにいられたのも……ヨナのおかげだよ」
二人の間に、出会ったばかりの頃の空気が流れ出す。
「私…クレイドルが……みんなのことが…好き。ヨナが許してくれなくても……ヨナのことが……っ」
言い終わらないうちに、ヨナが眉根を寄せながらうかつかとレイアの前に歩み寄る。
「………ぁ…」
気づけばヨナの胸の中に抱きしめられていて、一瞬呼吸が止まる。
「………」
懐かしく愛おしい香り。
(私は……このぬくもりを忘れることができるのかな……)
肌と肌が触れ合った時の温度
指先、唇、熱くなったヨナの全てを
「忘れる自信……ないよ……」
「………誰が忘れろなんて言った…?」
苦しいくらいのぬくもりの中で、上からヨナの声が降ってくる。
見上げると、琥珀色の瞳はもう冷淡さを失っていた。
「この赤のクイーンを忘れるなんて、絶対に許さないよ」
ヨナの指が、そっとレイアの顎を捉える。
「君がどこにいて……誰と共にいようと……この俺が認めた女性は君一人だ」
「ヨナ……んんっ…!」
何度このぬくもりを貰ったのだろう。
唇に落とされた……欲しくてたまらなかったもの。
(ん……ヨナ………)
顎を捉えた手が首の後ろへ回り、口づけが深まる。