第35章 Last 2days【別れ】
満月の夜。
初めてクレイドルに落ちてきた日から1ヶ月経った。
とてつもなく長かったような、瞬く間だったような、不思議な感覚だ。
私がここで体験したことは
本来ならきっと
心に深い傷を残し
身体にも傷を残すような
そんなことだったのだろう。
それでも、関わってきた全ての人を嫌いにならずにいられるのは
彼らが本当に自分のことを大切にしてくれたからだ。
優しく、楽しく、素敵な人たちだった。
「君の顔が…とても穏やかで良かったよ」
日が沈みかけるガーデン。
隣でそう言うのはブランさんだ。
「初めて君に会った時…かわいらしく美しいと思ったよ。そしてこれから先の宿命を呪った…。それでも君は…けがれずに美しいままでいてくれている」
ブランさんは穏やかな笑みをたたえながら、そっと頬をなでてくれる。
「……ヨナとは、兵舎でお別れしたのかい?」
一人でガーデンにやってきたレイアに、ブランは尋ねる。
「あ……はい」
嘘をついた。
ヨナには結局会っていない。
赤の兵舎、みんなの部屋に顔を出して挨拶をしていったが、ヨナは結局最後まで捕まらなかった。
カイルは半ば苛立ちながら探そうとしてくれたけど、自分でそれを止めた。
(仕方ない、よね……)
そうこうしているうちに完全に日が落ち、月明かりが照らし始めた。
ガーデンの片隅に月明かりが差し込み、ぽっかりと穴が現れる。
「ブランさん、いろいろとありがとうございました」
「いや、お礼を言うのは僕の方だ……君に会えて良かった。本当にありが……」
「……?」
ブランさんが途中で言葉を止める。
するとふっとため息をついて、ポケットから懐中時計を出した。
「……レイア、すまない。僕は急ぎの用を思い出してしまったよ。悪いけど、ここで失礼するよ?」
「えっ………あ…はい……」
ブランはめがねの奥でにっこり笑うと、さっと背を向けて歩き出していった。
(……ど、どうしたのかな…)
穴に飛び込むところまで見送ってくれてもいいのに…。
暗がりに消えるブランの背中を見送ると
レイアの近くの茂みが急にガサガサッと音を立てた。
「………っ?!」
(誰かいるの…)
恐る恐るレイアが音のする方を覗き込むと。