第35章 Last 2days【別れ】
翌日。
クレイドルの空はよく晴れている。
レイアはセントラルへ向かうため、馬車に乗って赤の橋を渡っていた。
本来ならばまだヨナが「主人」であることに変わりは無いため外出には許可が必要なのだが、
肝心のヨナは避けているのか捕まらず、エドガーに伝言を頼んで単身セントラルにやってきたのだった。
(私がやれることを…最後までやる)
悔いの無いように。
(これで最後かもしれないから)
レイアは小脇に抱えたかばんの中身をきゅっと手で確かめると、セントラルの街並みを窓から眺めた。
馬車が到着したのは公会堂近くの郵便局だ。
中に入り、窓口に向かうとレイアはかばんの中身を出す。
ドサドサッ!!
窓口のカウンターに積まれた手紙を見ると、局員は目を見開く。
「これ、全部ですか?」
「はい、全部です」
12通の手紙は、一つ一つがとても分厚い。
「こちらの5通が黒の兵舎、こっちが赤の兵舎、これはブラン=ラパンさん宅、これは…あ、住所分からないなぁ…とりあえず黒の兵舎に!」
「は、はぁ…」
「それと、これは全部明後日到着にしてもらえますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。順当にいけば明後日着になります」
「よろしくお願いします」
レイアは支払いを済ませ郵便局を後にする。
(さて次は)
市場へ足を向ける。
昼前の市場はまだまだ新鮮な食材がたくさん並んでいる。
「卵と、お砂糖、小麦粉…それからアーモンドプードルと…牛乳も必要かな。それと…」
レイアは手際よく買い物を済ませていく。
(作るのは久しぶりだな…うまくいくかな……)
大量の製菓材料を買うと、レイアは再び馬車を捉まえて赤の兵舎へと戻った。
赤の兵舎のキッチンはまるでレストランの厨房のようで、とても広く、道具も豊富にそろっている。
(黒の兵舎のキッチンも好きだけど…ここはすごいなぁ)
手伝うと言って聞かない料理長をなんとか追い出し、レイアは腕まくりをする。
(さて…時間の許す限り作ろう…!)
レイアは作業台の上に材料を広げ、武者震いをした。