第35章 Last 2days【別れ】
言い淀むレイアの頭に、カイルは大きな手でぽん、となでた。
「……お前が黒の兵舎に行ったらどうなるかくらい、予想はつくだろーが。いくらあの鈍いヨナでも分かってたはずだぜー?」
「えっ?」
(ヨナ…私が抱かれる可能性を知ってて許可したの?)
「でも普通は…こんなことにはならないよね……私がいい加減なせいでヨナを傷つけたことには変わりないよ」
「……お前さ」
カイルは笑みを消し、真剣な面持ちでレイアを覗き込む。
「自分のこと、過小評価しすぎだっつの」
「………え?」
「お前って、なんかほっとけねー感じするし……ましてや相手は一度関係を持ってんだからよ……『男』なら抑えが効かなくなっちまうんじゃねーか?」
カイルの指がそっとレイアの髪を撫でる。
「お前のせいじゃねーよ」
「……っ」
「ヨナもそれを分かってるはずだ……ただ、今はまだ気持ちが追いつかねーだけだ」
涙がこぼれそうになる。
それを見てカイルが苦笑する。
「おいおい泣くな……まーとにかく自分をそんなに責めんな?」
「……ん…」
上ずりそうな声でレイアは必死に頷く。
「………こんなところで何やってるんだよ、カイル」
突然、聞き慣れた声がする。
「噂をすれば……だな」
カイルは声のする方を見やってにやりと笑う。
「医者は医者らしく医務室にいたらどう?」
「今日の診察はもう終了だ、どこに行こうと勝手だろー?」
ヨナは眉根を寄せわざとらしくため息をつく。
「……ケガ、したんだけど?早く治療してくんない?」
「えっ……」
顔色を変えて見上げるレイアをヨナは一瞬見たが、すぐカイルに視線を戻す。
カイルは目を細めてヨナを見る。
「………ったく、時間外料金取るぞ」
「軍医が幹部から金とる気?!」
つかつか、と歩み寄ったカイルは、大げさに押さえ込んでいるヨナの手を乱暴に掴み上げた。
「痛っ!!」
「………ったくこんなかすり傷自分で消毒しろ。ここに来る口実にしちゃ下手くそすぎんなー……」
「……はぁ?!違うし!つべこべ言ってないで治療してよ」
ヨナの顔が心なしか赤い。