第32章 last 4d【黒への招待】
(……ん?あれっ……?)
セスに手渡されたオレンジジュースは変わった味がする。
「セスさん、これほんとにオレンジジュ……」
「あっ!!やーん!!アタシったら…これフェンリルに頼まれてたカクテルだったぁー!」
「…!!」
オレンジジュースと思って勢いよく飲んでしまったカクテルは、かなりお酒が入っていたのかだんだんと喉のあたりが熱くなるのを感じる。
「ごめんなさいね、アリスちゃん…大丈夫?」
「うん…」
「……お水持ってくる」
そう言って立ち上がったのはルカだった。
「あ、ありがとう」
すると、セスはルカが座っていた席に座り、少しトロンとした眼差しでレイアを見つめた。
「ほーんと……アリスちゃんって、可愛いわよね」
「え?」
少し酔ったセスの眼差しは、色気の奥に男をにじませている。
「あの性悪美人にだけ独占させるのが、本当にもったいないわ…?」
「セ、セスさ……」
するとセスがレイアの椅子の背もたれに手をつき、鼻先が触れそうなほどに顔を近づけた。
「……あの夜の続き……今度は…優しく甘やかしてやろうか」
「………えっ」
オネエの消えた低い声が、レイアの耳にダイレクトに響いたその時だった。
「おーいこの怪力オネエ!俺の飲みもんはどーしたんだよ!!」
「あイタタタタタっ!!!ちょっとー!!レディに対して失礼よっ!」
「だーれがレディだっつーの」
後ろからセスの耳を引っ張ってレイアから引き剥がしたのはフェンリルだった。
そのやりとりが何だか懐かしくて、レイアは思わず吹き出した。
「もう…アリスちゃんまで……」
すると後ろにルカがやってきた。
「はい……フェンリルの飲み物も」
ルカはレイアに水を、フェンリルにはオレンジベースのカクテルを渡す。
「サンキュー!さすがルカ!」
「ありがとう、ルカ」
「ちょっとールカ、アタシには無いのぉ?」
「……セスはお水を頭から被ったらいい」
「やーん!いつの間にそんなツンツンなこと言うようになったのよーぉ!!」
ルカにあしらわれるセスを笑いながらレイアとフェンリルは。グラスに口をつけた。
「ん?おい、ルカ」
「?」
フェンリルは半分飲み干したところで言った。
「これ…オレンジジュースだぞ?」