第32章 last 4d【黒への招待】
ひとしきりネコ溜まりでのひとときを堪能した後、二人は少し歩いて公会堂前の噴水広場にやってきた。
噴水の縁に並んで腰掛け空を仰ぐと、西の空が少しだけオレンジ色に染まり始めていた。
人通りは少し減り、家路を急ぐ人や仕事を終えた人たちが行き交う。
「お前さ」
おもむろに口を開いたのはレイの方だった。
「元の世界に…帰んの?」
「………うん」
レイの横顔を伺い見ても、感情までは読めなかった。
「ふーん……でも、赤のクイーンに惚れてるんだろ?」
「そ、それは………」
直球の問いにレイアは赤面して俯いた。
「………私、こっちの世界で生きていきたいから…元の世界にけじめつけてきたいの」
「そういうことか…」
その時、レイが僅かに身じろいだ。
(えっ?)
さり気なく、レイの手がレイアの手に重ねられる。
「……あのさ…俺たちんトコに来ない…??」
「…………えっ……?!」
レイからの突然の提案にレイアは驚き目を見開いた。
「月小屋の主人のルールは次の満月までだ。その後アリスが……つまりお前が元の世界に戻った後そのルールは適用されない」
「レイ……それは………」
僅かに憂いをにじませたレイアに、レイは重ねた手に力を込める。
「勘違いすんなよ……」
真剣で真っ直ぐなエメラルドグリーンの瞳がレイアを射抜くように見つめた。
「お前の『力』が欲しいとか、黒の軍が赤の軍と戦うためにとか、そういうんじゃねーから…」
するとすぐに視線は逸らされ、レイの頬が僅かに染まったように見えた。
「……単に…俺らみんな、お前と一緒に居たいんだと、思う」
そう告げられて、ルカやセス、フェンリル、そしてシリウスの顔が思い浮かべられる。
「レイも………そう思ってくれてるの?」
その言葉にレイは視線を逸したまま答える。
「まぁ……そうだな…」
ためらいがちな長い息を吐いてレイが続ける。
「お前と過ごした時間……悪くなかったと思ってる。もちろん…『月小屋での夜』も含めて……」
再び向けられたレイの視線は柔らかかった。
「お前が誰を好きでも……俺はお前のこと、手元に置いときてーんだけど…?」
「レ、レイ…!」
レイアが顔を真っ赤に染めたその時だった。