第3章 DAY1 赤の兵舎
不機嫌そうに尋ねるヨナに、なんでもない、とレイアは首を振る。
「ま…なんだかわからないけれど君が笑ってくれてよかったよ」
そう言ってふっと微笑んだヨナの顔に
レイアは一瞬胸がどきりと音を立てた。
「俺は月小屋の宴なんていう野蛮な行為をしなくても赤の軍の勝利は確実だと思っているから…あのような行為に加担したいとは全く思ってない」
(そう思っている人もいるんだ……ていうか)
これから始まる宴のルール通りに進めば
いずれ先ほどあったエドガーや
今目の前にいるヨナにも
抱かれる夜が来る、と思うと
レイアは気が重くなってきてしまった。
「………」
表情の陰るレイアを見て、ヨナは少し慌てた。
「とっ、とにかく…さっさとその服着替えて、談話室にでも来れば?!他の幹部も君に逢いたがってるみたいだし…しばらくはここで生活するんだから自己紹介くらいしなよね!」
乱暴な言い方だが優しく気遣っていることは伝わる。
レイアは少しだけ笑むと
「はい…じゃあ、そうしますね」
と、ヨナに頭を下げた。
「わ、わかればいいけど…」
立ち去るヨナの顔は少しだけ赤く染まっていた。
(いったいヨナってどういう趣味しているのかな…)
クローゼットの中は
本当にお人形さんが着るような、フリルがふんだんにあしらわれたパステルカラーの服ばかりだった。
その中でも一番大人しいデザインだった
サーモンピンクのスカートと、白のフリルブラウスを纏って
先ほどヨナから聞いた談話室へと向かった。
「し…失礼します……」
談話室には
昨夜のガーデンにいた「幹部」と呼ばれる人たちが座っていた。
(ど、どうしよう…緊張する…)
ひときわその緊張を煽るのは
金髪の、威厳を放つ男…キングだ。
(確か……ランスロット)
そう思い起こした瞬間にランスロットと目が合う。
(うっ……)
「……お前がアリスか」
静かに言葉が放たれる。
「はい……レイアといいます」
「こちらへ座れ」
ランスロットは隣にあった空席にレイアを促した。
「…ブランから月小屋のルールは聞いたか」
ランスロットの直球の問いに
レイアはごくりと喉を鳴らした。