第21章 DAY10 How many times?
翌朝。
赤の軍兵舎の食堂兼談話室にヨナが足を踏み入れると
先客がそこにいた。
「君が朝から食卓の前にいるなんて珍しいこともあるんだね」
「ああ……今日は珍しく…二日酔いじゃねえ」
カイルは血色の良い顔でパンをほおばっていた。
「昨日はまた飲みに行っていたのかと思ったけど」
「ああ、行った。でも真面目な話してたらあまり酔えなかったんだよなー」
カイルの飲み仲間といえば白ウサギのブランと帽子屋オリヴァーと決まっているのだが、
その二人と「真面目な話」というのが妙にひっかかった。
「何話してたの。月小屋の件?」
カイルはちらりと向かいに座るヨナを見やった。
「あー、今日ヨナだったよな」
「えっ…まぁ、そうだけど」
少し目を泳がせるヨナをよそに、カイルは神妙な顔をしていた。
「……昨日の襲撃の件、どう思う?」
カイルはいきなり切り出した。
ヨナの表情も僅かにかげる。
「カイル…君は襲った犯人の目星がついてるの?」
カイルは眉間にしわを寄せたまま答える。
「ま、大体はなー…」
そう答えながら、後ろに人の気配がないことを確認してカイルは声をひそめた。
「……おそらくだけどな、魔法学者の連中がランスと手組んで黒の軍を確実につぶす、って算段なんだと思うんだよな。襲撃したのは、黒の軍の持つ『アリスからもらった力』を無駄遣いさせるため…」
ヨナは目を見開いた。
カイルはやはり頭は切れる。
「……ってのが建前」
「はぁ?」
ヨナはますます困惑する。
「真相はもっと深いような気がすんだよなー…そしておそらく、ランスはそれにも気付いてもくろみ済み…だと思うんだけど、まーさすがにそれ以上は俺にもわかんねーな」
「………」
ヨナは黙り込んでしまった。
ただ、ヨナの中では
レイアの身がとても危険にさらされる嫌な予感がしてならなかった。
(レイア……)
そして何が何でも、彼女を守らなくてはならないという気持ちが増していくのだった。
「…ヨナ」
「え?」
「エドガーの奴、相当レイアのこと絞ってるハズだから、今夜フォロー頼むな」
「……は?」
ヨナの眉間に深いしわが寄った。
(どういうことだよ……一体なにが起きているんだ)