第17章 DAY8 思惑
そう言いかけて、ヨナは無駄な抵抗をやめた。
「………」
二人は沈黙して見つめ合う。
それだけで、なぜかお互いがお互いの気持ちを理解できている、そんな空気が流れた。
「……レイアさーん」
後ろの方から、護衛の兵士の呼び声がした。
「……行かなきゃ」
「……うん、気をつけて」
ヨナが少し寂しげに、柔らかく笑う。
「俺に会えなくても泣かないでね」
「……ふふっ」
いつも一言何か言いたいヨナが、レイアには愛おしく思えた。
時を同じくして、セントラル地区にあるブランの家。
そこにはカイルが訪れていた。
「珍しいね、カイルと酒場以外で会うのは」
ブランはイチゴの香りがする紅茶を淹れてカイルに出した。
「あー、そうだな……おい、ブラン。この紅茶、酒は入ってねぇのか」
「おいヤブ医者。人を治す前に自分のアルコール依存症を早いところ治せ」
緑のシルクハットをかぶった帽子屋オリヴァーは今日も苛烈な言葉を浴びせかける。
「……まー、酒ナシでもいいんだけどよ、ちょっと聞きてえことがあってな」
カイルはだるそうな口調のまま続けた。
「月小屋の宴、アリスを抱くと魔法を弾く力がもらえるんだよな」
「そうだよ」
「それはどれくらいの効果があるんだ」
ブランはにこやかに焼き菓子をサーブしながら答える。
「そうだね…一度の『やりとり』で得られるエネルギーを1単位とすると、1単位は発動から24時間有効だよ」
「つまり発動後24時間で消失すんだな?」
「ええ、その通り」
カイルは出されたクッキーをぼりぼりかじりながら、明後日の方を見つめ思案する。
「……おい、もっとマシな食い方できないのか。このアル中ヤブ医者」
「………」
カイルの耳にはオリヴァーの毒舌は入ってこない。
ブランは紅茶を一口飲み、口を開いた。
「たとえば、一晩の間に複数回『やりとり』があった場合は、その数だけ得られる単位数が増えるよ」
「……てことは、2発やれば2単位か」
「おい!このエロヤブ医者!」
「そう、正解」
ブランは笑顔でうなづいた。