第17章 DAY8 思惑
お昼過ぎのセントラル地区。
人々の賑わう街中を、ヨナは一人で歩いていた。
眉根を寄せながら不機嫌そうに、しかし少しだけ顔を赤くしながら歩いている。
(……一体どういうつもりだよ…)
朝、ゼロから「レイアからの言伝だ」と言われて伝えられた言葉が、頭の中で反芻する。
『午後、セントラル地区の市場で買い物をします』
(まったく意味がわからないよ……)
そう思いながらもヨナの足はセントラル地区の市場の方へ向かっている。
(俺は…あくまでこの先の…クレメンス家御用達の靴店に行くだけ…)
特に痛んだ様子もないブーツを足元に光らせながら、ヨナはつかつかと歩いていた。
やがて道の両側に様々な露店の並ぶ市場通りへさしかかった。
ヨナの足取りが急に遅くなり、目があたりを泳ぐ。
(……市場を見てるだけ…見てるだけだから…)
そう自分に言い聞かせながら歩みを進めていると
「……っ!!」
野菜を売る露店の前。
黒の軍の兵士と共に買い物をする、見慣れた後ろ姿があった。
(……ほんとにいた…)
しかし、黒の軍の兵士が隣に居る。
幹部ではないが、おそらく護衛だろう。
セントラル地区とはいえ、
声を掛けるわけにはいかない。
(元気な姿が見れただけでも……)
ヨナはそのままレイアの後ろを通り過ぎていった。
「レイアさん?」
野菜の露店の前で急にぼーっとしたレイアに
護衛の兵士が話しかけた。
「あ、ごめんなさい…私さっきのお店で買い忘れたものがあった。ここであと人参と玉ねぎを買って待っててくれませんか?」
「わかりました、気をつけて」
「うん」
レイアは足早にその場を後にする。
(見間違いじゃない…よね)
「ヨナ!」
白と赤の鮮やかな軍服は、遠目からでも目立つ。
「…レイアっ」
ヨナは目を見開き振り返る。
「ゼロの言伝、聞いてくれたんだね」
「き、聞いてないよ…俺はたまたまこっちに用事が合って…歩いてただけだから…!」
顔を真っ赤にしながら目を泳がせて答える。
「…そうなの?」
「そ、そうだよ!この俺が君に会いたくてわざわざ出向くわけ……」