第6章 最終日、そして運命は非情に廻り始める
その頃スズシロは──
「こちらです」
「ありがとう。悪いけどあなたはここで待っててもらえる?あたしは1人でも平気だから」
そう言って付いてきてくれていた女性を引き離し、1人でLEVEL6の中を歩く。
ここに収監されている囚人たちは、皆その凶悪すぎる犯罪歴から存在を抹消されたほどの者たちだ。
もちろん、“火拳のエース”もここにいる。スズシロの目的はその“火拳のエース”だった。
「……誰だ」
敵意を剥き出しにしたエースに苦笑する。こんな奴を好きになったのかあの子は。
「あたしはスズシロ。ねぇ、訊きたいことがあるんだけど」
「……なんだ」
「リラって子、知ってるでしょ?」
ニコッと営業スマイル全開で言うと、エースは明らかに知っていそうな反応をした。
「知ってるんだ?」
「……だったらなんだ」
「んー、ひとつ言っておいてあげるよ」
クルクルと髪をいじる。そして笑顔をまた1つ。
「例えばの話なんだけど……心まで凍ってしまった雪女がいるとするでしょ?その凍った雪女の心を解かすことが出来るのは誰だと思う?」
エースは答えない。まぁ分かるわけないよね。あの子はあんなにあなたを想っているのに、あなたはそれに何も答えなかった。まぁあの子も何も言わなかったみたいだけど。
「炎を持っている人だよ」
「……頭イカれてんのか」
うーわー、海賊に言われるとかマジ屈辱。そう思ったが、感情を隠すのはスズシロの十八番。しれっと答えた。
「雪も氷も炎で溶ける。つまりね、あの子の心を溶かして虜に出来るのは火拳のエース、あなただけってこと」
それだけだよ。じゃあね。
そう言って去ろうとすると、エースが「待て」と声をかけた。
「アイツは……リラは雪女なのか?」
「さあね?あの子があなたに言ってないのならあたしが言う権利はないから」
しれっとそう答える。スズシロは今度こそエースに背を向けてLEVEL6を後にした。