第6章 最終日、そして運命は非情に廻り始める
「まぁとにかく」とスズシロが言った。
「連絡は来るんですよね?」
スズシロがガープに訊くと、ガープは頷いた。
「じゃ安心だ。──あたしインペルダウン行って来ますねー」
「あ、待って。じゃあ私も……」
付いて行こうとしたリラにスズシロはピッと人差し指をリラの顔の前に指した。
「来なくていいわ」
「え、でも……」
「あたしは1人で行きたいの」
そこまで言われたら食い下がれない。リラは渋々下がった。
「じゃ、連絡来たら電伝虫鳴らしてよね」
「分かったわよ」
ふうっとため息をついてスズシロを見送る。
「……じゃあ私も部屋に戻ってていいですか?」
「構わんが……茶でも飲んで行かんか」
出す気は無いってことね。リラは本日何度目か分からないため息をついて、ガープの隣に座って茶を頂いた。
「時にお前……エースを知っているのか」
「はっ?」
いきなり予想の斜め上を行く質問をされて、変な声が出てしまった。
「……火拳のエースのことは常識的には知ってるわ。でもそれがどうしたの?」
おかしな答え方では無いはずだ。ガープはふむ……と考え込む風情を見せた。
「何か?」
「いや……エースが捕まった時にな、わしゃアイツに会いに行ったんじゃ」
不思議に思って訊いてみると、ガープはエースを赤ん坊の頃から知っており、実の孫のように接していたという。
「アイツは……心残りが2つくらいあると言っておった」
訊きたくない。でも声は出なかった。
「1つは──弟のルフィの“夢の果て”を見れんこと」
お願い。もう言わないで。そうでもしなきゃ──
「もう1つは──ある島に置いてきた女のこと」
戻れなくなる。
「アイツは──その女をとても大切に想っていたと言っていた。だからこそ……自分の手で幸せにしてやれないこと、その女の幸せを見届けることが出来ないことが心残りだなと言っていたわい」
やめてよ。
エース、あなたは海賊。私は海軍。
2つの線は平行線で、交わることなんてないのに。
ねぇエース。
もしも、私がただの女だったなら。あなたと私は幸せになれたのかな?
もしも、あなたがただの旅人だったなら。私はあなたに何もかもさらけ出すことが出来たのかな?
考えたって分からない。
お茶がどんどんと冷めて行く──