第1章 Lv.5
「──だからね、鉄朗」
及川さんはあくまで笑みを絶やさない。軽やかに、それでいて、艶やかに。
「お前が立派なレディにしてあげるんだ。そこの芋を、俺が見惚れるくらいの女に変えてごらん」
離さないのだ。
私たちの視線を、意識を、惹きつけて離さない。この楽屋がステージになってしまったかのような、そんな錯覚さえ。
「期限は一週間」
ピ、と一本指が立てられた。
微笑を携えたままの瞳が、まっすぐにテツローさんを捕らえている。刺すような及川さんの視線。
「それまでに俺を納得させられなかったら、オーディションをして他のダンサーを雇う。意義はないね?」
「……はい、ありま、せん」
「いい子。それじゃあ俺は店に戻るよ」
テツローさんに反撃の余地を与えずに言い切って、及川さんは去っていった。
嵐が、過ぎたかのような。
静寂で満たされた部屋に、大きな大きな溜息が響く。
それはもちろんテツローさんが吐いたもので、その落ちこみようときたら。ガックリと頭を垂れる姿はまるであれだ。
昔の漫画の、ボクシングの。
「ジョーかよ、矢吹かよ」
スガさんが含笑いをしつつツッコミをいれる。ついでに写メを撮る。それを嬉々としてSNSに投稿したところで、やっとテツローさんが顔をあげた。
「スガちゃん助け「お前が自分で蒔いたタネだべ?」……そうデスネすみませんあと笑顔が怖い」
更にひとつ、テツローさんから漏れる溜息。その様子を見ていることしかできない私に、スガさんからの問いが飛んできた。
「そんで君は、ええと──」
「………愛莉、です」
「じゃあ愛莉! 愛莉はどうしたい? 訳も分からず連れてこられたみたいに見えたけど、こっから先はちゃんと自分で選ばなきゃだぞ」
再び迫られる、人生の二択。