第1章 Lv.5
考えた。
私は、どうしたいのか。
私は、なにを望むのか。
答えはひとつしかない。
「……私、踊りたいです」
踊ることが好きだ。
ステージに立つのは、もっと好き。
開演を報せるブザーと共に上がっていく緞帳。少しずつ、開けていく景色。満員の観客。
舞台を照らすピンスポットは太陽よりも熱くて、止むことを知らない拍手は割れんばかりの。
あの昂揚感、あの興奮。
ステージに立たなければ得られない特別な瞬間はどれも、私にとって──
「生き甲斐なんです。踊れない人生なんて息をしてないのと同じ、だから」
スガさんを見て、それから。
テツローさんのことを見る。
「だから、働きたいです。私をここで働かせてください。お願いします」
私は深々と頭を下げた。
ドキドキと、高鳴る胸。スガさんが「決まりだな」と笑んだ気配がする。
顔をあげてみるとテツローさんもこちらを見ていて、まだちょっとだけ不服そうな瞳と目が合った。
「……途中で辛いだとか、もうやめるだとか、泣きごと言ったら詰めるからな」
詰めるって、そんなまた物騒な。
物騒なのは顔だけにしてください。とか、なんとか。頭に浮かぶ憎まれ口はひとまず呑みこんでおいて、私は改めて名を名乗ることにした。
「私、垂水愛莉です」
差しだした掌を、テツローさんの大きな手がぶっきらぼうに握りかえす。
「黒尾だ、黒尾鉄朗。ここでバーテンしながらステージ構成を担当してる」
繋がる体温。
そこへ、もうひとつ。
加わった熱。
雪のような白肌。
「俺、菅原孝支な! 基本バックでピアノ弾いてるけど、新しいショーを作るときは作曲もしてる。よろしく、愛莉!」
こうして、私の人生史上最も色濃く、そして目まぐるしい一週間が幕を開けたのであった。