第1章 Lv.5
「ただし、条件がある」
ある意味覚悟はできていた。
ほらやっぱり、そう思う。
うまい話には裏があるのだ。
都内の一等地に店を構えるダンスショークラブ。外観を見ただけでも箱の大きさが窺えるようだし、客単価もさぞお高いのでしょう。
そんな高級クラブにだ。
美男子店長曰く「芋っ子」の私が、手放しで雇ってもらえるワケがない。
求められる条件は、たぶん内臓とか、内臓とか。踊れることを除いた私の価値なんてそれくらいだ。
きっとこんな風に言われるのだろう。
うちで踊らせてやる代わりに、使えなくなったらお前を切り刻んで売り飛──
「鉄朗と同居すること」
「──……え?」
世界が、一時停止した。
唖然として。
呆然として。
ぱちくりと二回、たっぷり時間をかけて瞬きをしたあたりで、テツローさんが大きな声を出す。
「はァァ?! ちょ、何、なんでそうなるんだよ及川!」
「さん、ね、及川さん」
「……っ及、川、さん」
自身の発言に噛みついたテツローさんをピシャリと一蹴して店長は、──及川さんは、唇で下弦の月を描いた。
「たしかに彼女のダンスは魅力的」
流れる水のように滑りだす言葉。
こちらに歩み寄って、おもむろに私のボディラインを撫ではじめる彼。
「…………!!?」
混乱している私のことなど気にも留めないといった様子で、及川さんの言葉は続いていく。
「なのに、何? この身体」
胸を鷲掴みにして「全然ダメ」
ウエストを摘んで「不合格」
ヒップを叩きつつ「色気ゼロ!」
「こんな芋っ子、うちのステージにあげる訳にはいかないね」