第3章 Lv.12
結局、インターホンを鳴らして彼に出迎えてもらって今に至る。
「近所迷惑な声出してんじゃねえ!」
そう私を叱った彼もいい感じに大声だったけれど、言うと後が怖いので黙っておくことにして。
「えっと、その、……ごめんなさい」
敷居をまたぐ前に静々と頭を垂れた。
玄関を一段上がったところにいる彼がハァ、と小さな溜息を漏らす。
「反省は」
「……してます」
「自衛は」
「……ちゃんとします」
「ダンサーたる者」
「……身体大事に、です」
まるでお父さんのようだと思う。いや、お母さんか。玄関先でこんな風に叱られるのは数年振りだ。
「次やったら詰めっからな」
まだ些かムスッとしてるし言ってることめっちゃ物騒だけど、しかし入室は許可してくれた彼。
リビングへと戻っていく背中が「一応女なんだから本当に気を付けろよ」とごちている。
女、って、思ってくれてるんだ。
ひとり残った玄関に腰を下ろし、靴を脱ぎながら火照る頰。嬉しいと、素直に思う。一応は非常に余計だけれども。
「──ああ、そうだ、おい芋」
そんなときだ。
鉄朗さんの声が再度聞こえた。
相変わらず私を芋と呼ぶ、彼の声。
女性枠にカテゴライズしてもらえたことに心弾んでいた私は、緩んだままの頰で振りかえった。
視線が、彼の微笑を捕らえて。
「おかえり」
緩みっぱなしの頰が。
朝の空気で冷えたはずの体が。
淡く、疼きだした心が。
一緒くたになってボンッ!と、火を噴いたように熱をあげる。
「たっ、ただ、……っ」
ビックリして息が詰まって。
気恥ずかしくて、嬉しくて。
「……──ただいま」
呟いたら胸が、ほくりと温かい。