第1章 Lv.5
促されるまま、ひと粒。
老舗ブランドのプラリネチョコを口に放りこむ。つるりと冷たい舌触りのあとに、解けだす豊かなカカオの香り。
「……甘い、うう、幸せ」
気づけば呟いていた。
チョコと一緒に蕩けてしまう頰に、手のひらを当てて涙ぐむ。満たされていく荒んだ心。生きてるって素晴らしい。ビバ・チョコレート。
道端で倒れていたところを救ってくれただけでなく、食べる物まで与えてくれた彼に全力でお礼を述べようとして、私は──
「礼は身体で払ってくれればいいから」
私は、全力で凍りついた。
え、なん、なに、何言ってるんだろうこの人。礼は身体で払ってくれればいいから。礼は、身体で。
「身体で!!?」
咄嗟に身構えて自分で自分を抱きしめる。すると、即座に冷ややかな声が返ってきた。
「オイ、なに勘違いしてんだ」
「何、って、……ナニのお話じゃないんですか」
「失礼極まりねえなお前。誰が好き好んでお前なんか抱くかよ」
失礼はどっちだ。
ついそう言ってしまいそうになって、寸前のところで口を噤む。
身体で払えと言われたら誰だってそういう意味だと思うでしょうに。でも、彼はそうじゃないと言う。
じゃあ一体何なのか。
私はこれでもかと眉根を寄せて王子(仮)、改め、テツローさんの言葉を待つ。
「働くんだよ、この店で」
運命が、ギシリと動きだした。